『ダシは取ること、風邪はひかぬこと』
 臨月を迎えた未知が、おばあちゃんであるタツの家へとやってくる。ろくなTVもやっていない夕方。おばあちゃんと未知のなんでもない会話が続く。やがて、未知のおなかの子は父親が誰だかわからないらしいということがわかり・・

 これはですね、稽古場でしゃべった事の記録が残ってまして、このタツおばあちゃんの誕生秘話ってところです。
じんの「このままだとメトロの世界に、子供が永遠に出てこないんじゃないかって思うのね。それと逆に、年輩の役者さんの出演ってのも難しいでしょう。おばあちゃんというキャラはできないものかね、坪井君ってことなんだけどね」
坪井「コミカルなおばあちゃんじゃない、おばあちゃんを、どこまで造形できるのかってことですよね」
じんの「リアルなおばあちゃんっていうはどういうものなのか? 『メトロ』ならではのおばあちゃんを模索したいと思ってるんだよね」
坪井「それは試す価値があると思いますけどねえ。どこまでなにができるのかって・・」
じんの「問題なのは、どれくらいリアルな老けメイクができるのかってことなんだけどね。シワを描かないで。コントじゃないんだから」
坪井「おじいちゃんじゃなくて、おばあちゃんなんだ」
じんの「どっちでもいい」
坪井「にしても、鉛筆でシワ描かないでね」
じんの「やるんだったら、ハリウッドの老けメイクなんだよね。やりたいのはとにかく、こう間近で見たときに、違和感のないメイクであって欲しいんだよね。あの皮膚が引きつるのがあるじゃない。ラテックスの。あれを試してみて、どれくらいそれっぽくなるのか? 『演技』の質って結構そういうところで左右されるかもしれないって、思ってはいるんだよね。そっちから入るおばあちゃん。皮膚の感覚からおばあちゃんを造形できないかなって思ってるのね。青島さんがやってた『いじわるばあさん』にならないためにはどうするのか? 元気があって、愛せるおばあちゃんで、なおかつ、このおばあちゃんの生きてきた歴史が垣間見られるといい。どういう時代を生きてきたのかとか、今の、この時代をどう思っているのか、とかね。そうだね。主義主張のあるおばあちゃんがいいんだよね」
坪井「おばあちゃんを見た時に、なにに、そういう事を感じるのかってことですよね」
じんの「そうそう・・やらなければならないことは見えてるの。でも、以上、それだけって感じ。無責任で申し訳ないけど、そういうことなんだよね。それに立ち向かっていきたいなと」
坪井「コミカルじゃない、おばあちゃんって・・何のひきだしもありませんよ・・だいたいコミカルなおばあちゃんだって満足にできるかどうか、わからないのに」
じんの「うーん、そうねえ、あれはあれで大変だものね・・」
坪井「いつ、やります?」
じんの「次で・・・やってみる」